| まただ。 明るい光に満ちた空間に視線を漂わせたまま ジェイドは心の内に呟いた。 なにをして、こうまで自分は神様というものに嫌われたのだろう。 望んだ物はいつだって、たった一つの、ささやかな。 それ以上を、自分は欲しがりはしないはずなのに。 たった一つの ただそれが、ただそれだけが、 それ程に分不相応な望みであったのだろうか。 視線が、己の足元へと落ちる。 強い、熱気を含んだ陽光に、くっきりと濃く自分の影。 陽炎にゆらりと揺らめくように、思い出される、かつての風景。 血の繋がらない人間の老夫婦との、穏やかで静かな生活。 眠る場所と優しい声。笑顔。 富も名誉も権力も、何一つ持たない、何一つ望まない善良な。 あの日あの木漏れ日の中、微笑み会う、穏やかな親子の姿。 血の繋がりも種族の違いも、全て飲み込んで手繰り寄せた ささやかで慎ましやかな幸福は。 ある日突然に。余りにも突然に、終焉を迎えた。 超人の子を引き取ったから。 繰り返される嫌がらせ、耳に届く非難と嫌悪。 目を逸らしていた訳ではない。 逆らわず、流されず、彼らなりに懸命に 信じた通りを生きただけ。 そしてその結果 彼らの人生は、いきなり幕を引かれて閉じた。 それでも。 お前の罪ではないと、繰り返された彼らの言葉を信じ 養母の最後の言葉を守るべく、自分なりの道を選んだ。 その思いに報いる為、懸命に高みを目指した筈だった。 その為に。 その為だけに、あの日、あの家を、彼の元を訪れたのだ・・・。 いつからだろう、目的は、手段であると気がついた。 強くなる。 その力を、正しい事に使う為に。 彼の人にさえそう告げた。 あの時の、その言葉には嘘などないのだ。 変わってしまっただけ。 気付いてしまっただけ。 それは目的ではない。 それは手段でしかない。 力を求めるのは、守る為。 世界を。 正義を。 貴方の居る、この世界を。 貴方の、望むその全てを。 どれほど感謝した事だろう。 幼いとは言え、彼らのお陰で 少なくとも 自分の命も選べない赤子ではなくなっていた。 母の言葉に、生きる道を見失う事もせずに済んだ。 そして。 絶対だと、ただそう信じられる、あの人に辿り着いた。 母の言葉がなければ。 あの悲しい別れが無かったならば。 決して辿り着く事の出来ない場所へ、 ただあの一言が導いてくれたのだ。 けれど。 ならば。 ぼんやりと、ジェイドは視線を世界へと戻す。 笑いあう親子。 過ぎ行く人々。 それぞれに。 それぞれの。 行く先、行く道、帰る場所。 呼吸さえも重く、肺にたまった空気は冷たく。 全て吐き出してしまいたいと、ギリギリまでを吐き出して。 これが限界なのかと、そんな事にさえ絶望する。 考えまいとして、けれど思い浮かんで消す事もかなわない、 最後に貴方が示した道は。 諦めて、その言葉を思い出す。 一言一句、ゆっくりと噛締めながら。 お前には、友が居る。 それこそが、お前を高みへ導くはず。 いつか。 貴方の言葉に、貴方の行為に、 貴方の思いに自分は。 笑える日が、来ますか? 貴方の言葉が導いてくれたと、 あなたのお陰で「ここ」へ来れたと、 笑える日が来ますか?レーラァ。 涙で滲むこの世界に その場所は、本当にありますか? あの日母が残してくれた あの言葉と同じように 未来の自分に、全てを与えてくれますか? 世界の全てを漠然と瞳に移しながら。 自分には何を見るべきかすら分からないのに。 焦点を合わせるべき場所すら見つけられずに なのに目を閉じる事すら出来ないまま。 あの時乗り越えられたものが あの時信じられたものが あの時支えになったものが 今は何一つ力を与えてはくれない。 いつまで待てば良いですか? いつまで耐えれば超えられますか? いつか自分は、貴方を忘れられますか? 有得ない、と そんな日は来はしないと 分かっているのに。 知っているのに。 いつまで自分に嘘をつけば 嘘は本当になりますか? 足元の影は濃く。 光が強ければそれだけ。 世界は明るく、幸福に満ちて。 その瞳に世界は映らず。 ただ貴方を・・・。 ・・・貴方だけを。 ------------------------------------------------2004/8/26 |